21世紀は「電子の時代」を受けて光工学技術が

より高度な技術化社会を担う、つまり「光の時代」

になると期待されています。その例として、ディス

プレイの発光材料や、CDやDVDといった光記憶

メディア、太陽光発電、フルカラープリントなどが

挙げられます

 有機化合物は二重結合や孤立電子対で電子の流れ

道をつなげていく(π共役系を広げていく)ことで、

興味深い物理的・光学的性質を示します。この性質

を利用することで、「光の時代」の材料として活躍

することができます。さらに、有機化合物はデザイ

ン通りの化合物を作ることが可能であり、目的にあ

った最良の化合物を創製することができます。廃棄

の際にも重金属を出すこともなく、有機溶剤にとけ

ることを使って分離・再利用も容易となります。

のような有機化合物の利点をもった、新規有機π

共役系化合物を合成し、新機能の開拓を行ってい

ます。

 

 

・エレクトロルミネッセンス素子の開発

 有機分子に電圧をかけることで、電荷【ホール(+電荷)と電子(−電荷)】のやり取りが行われます。この際、おなじ分子の中に+電荷と−電荷が共存すると、その分子内で再結合すると同時に電気的に励起状態を形成することができます。この励起状態からの発光をエレクトロルミネッセンス(EL)といい、フルカラーディスプレイなどへ利用されています。このエレクトロルミネッセンス(EL)特性を利用した分子素子を設計し、フルカラーディスプレイ用高性能EL素子材料を開発しています。その結果、1,1-フェニレン-2,2-ビピロールおよび1,1-フェニレン-2,2-ビイミダゾール構造で、興味深い発光特性が得られることを見出しています

 

 

 

 

・新しい発光材料の創出

 発光物質は、先に示したディスプレイやセンサーなどさまざまな分野での利用価値が高まっています。強い強度での発光やさまざまな発光波長の物質の創出を目指し、環構造にすることで分子の動きを固定した化合物を設計・合成して発光特性を研究しています。その結果、溶液状態でも固体状態でも発光する物質を開発することに成功しています。置換基をかえることで様々な発光を出せる化合物群も開拓し、簡単な修飾を行うだけで有機溶媒などの補助溶媒をもちいなくても水(純水)に溶かすことができる蛍光性有機物質の開発にも成功しています。また、ほかの物質を入れることで発光しなくなる現象も見出されており、センサーなどへの応用も期待されます。

 

 

 

 

・新しい光吸収材料の開発

 可視光領域に吸収を持つ色素は、様々な商品の着色だけでなく、印刷インクやカラーフィルター、紫外線吸収材、太陽電池用色素などにも利用されています。われわれは、有機物質の特性に注目して、効率よく可視光領域に吸収を持つドナー−π−アクセプター型化合物の設計と開発をおこなっています。アクセプターとして1,3-インダンジオン骨格などに注目して、様々な色調をもつ化合物の合成に成功しています。また、『つなぎ手』としてカルボン酸を導入することで酸化チタン上への吸着も可能となり、色素増感型太陽電池の色材として利用可能であることも見出しました。

 

 

 

 

・新しい機能性分子の開拓

 新しいπ電子系を開拓することであらたな機能性材料の開発が行なえると考え、さまざまな新規骨格の合成とその物性について研究しています。テトラアリールビピロール構造に注目して研究を行ったところ、ピロール環の両端にドナーとアクセプターを持った化合物群が基底状態ではビピロール環同士がねじれた状態であり、光励起することでビピロール環同士が共平面性を取ることで、大きなStokes shift(励起波長と発光波長の差)を持つことがわかりました。さらに、窒素上にホルミル基(-CHO)を導入した化合物では、再結晶化で無色結晶として得られた物質が、乳鉢ですりつぶすなど加圧することで淡黄色へと色調変化を起こすメカノクロミズム現象を見いだしました。この現象について、さまざまな測定装置や分子計算的手法を駆使してその原理解明に挑んでいます。

 

 

 

 また、ドナー−π−アクセプター型化合物においてもメカノクロミズム現象を発現する化合物群を発見しています。おなじドナー−π−アクセプター化合物でありながら、アクセプター部位が異なることで色調変化が「深色シフト(長波長側への変化)」と「浅色シフト(短波長側への変化)」と変化できることを見出しました。さらに、その色調変化が結晶構造に起因していることを明らかにしています。

 

 

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