香りは音速で伝わる?

 最近おもしろい研究結果を耳にしました。「蜂が花の香りを嗅ぎつけて蜜を探すのだが、その香りの元を出したとたんに遠く離れた蜂達が一瞬にして感知する」というのです。あたかも香りが電波のように一瞬にして伝わったかのように。

 

 一般には、香りは拡散したり、風にのって伝わって行ったりするのだからそんなに速く伝わるわけがないと考えるのが常識です。しかし、考えてみて下さい。気体の分子は非常に速い速度で飛び回っているのです。その速度はほぼ音速に一致します。普通、煙が音速で広がらないのは空気の分子と衝突を繰り返し、行ったり来たりしながら広がっていくからです。衝突せずに進める距離は常温で平均50 nm(*)と言われています。

 

 一方、たとえ耳かきいっぱいの液体であってもその中に含まれる分子の数は1020もの数になります。それが蒸発したら、その中のいくつかはほとんど衝突なしで届くものもあってもおかしくはないのではないでしょうか。そのような分子があったとしたら、音速で移動することができます。

 

 そこで計算をしてみました、香りの分子が衝突せずに1m走れる確率を。その結果、何百億年観察をし続けていてもそのような現象は見ることができない程度の確率であることがわかりました。蜂の嗅覚の実験は真空中でやったのではないでしょうね?

 

[理工系向け説明]

 半径rの分子xが距離lだけ走った軌跡を考えてみます。空気中の気体の半径をrとすると、分子xの軌跡を中心とした半径が(r+r)の筒の中に他の気体分子が存在していなければ分子xは空気中の分子と衝突せずに走ることができることになります(簡単のために空気中の分子は静止しているものとします)。さらに、分子xの軌跡を中心とした半径qの筒を考えます。この筒の中の気体の分子一つが半径(r+r)の筒の中に存在しない確率は

 

外側の筒の中にはNpql)/(RT)個の気体分子が存在します(理想気体の状態方程式より。NA:アボガドロ定数、p:気体の圧力、R:ガス定数、T:温度)。これら全てが分子xの軌道にかからない確率は

 

この値は筒の半径qが大きくなるにつれて一定値に近付きます*誘導r=0.05 nm, r=0.05 nm, T=290K, l=1 mとすると、この値はおよそ

 

です。これは10340000個の分子に一つの割合でしか起こらないということです。1モルが1023という大きな値でも、この確率はもっともっと低い値です。

 

*誘導

  

 

 


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