ところで、これはいったい何?
これは、非晶質シリカ(SiO2)でできた材料の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真です。この材料はマイクロメートルサイズのシリカ骨格と空間(細孔)が3次元に相互に連続した構造を持っています。この細孔のサイズが材料全体にわたって非常に均質であることが、この材料の特徴の一つです。
この材料には、もう一つの特徴があります。のっぺらと見えるシリカの骨格ですが、この骨格の中に、SEMですら観測が困難な非常に微細な細孔が、無数に存在しています。
つまり、この材料は、SEMで観測されるマイクロメートルサイズの均質な細孔と、より微細なナノメートルサイズの細孔を併せ持っているのです。
右の図は、マイクロメートルスケールでの、細孔サイズの分布を示しています。a, b, c, d, の4つの山はそれぞれ違う試料の分布です。上のSEM写真から容易に想像できるように、非常にシャープな分布を示しています。
無機材料についてこれほどきれいにマイクロメートルスケールの細孔サイズを揃えることは従来非常に困難なことでした。しかしこの材料では容易に細孔サイズ分布を揃えることができます。
それだけではありません。0.1マイクロメートルからおよそ数十マイクロメートルの間で任意に細孔サイズを制御することができるのです。
この材料はさらにナノメートルサイズの細孔も持っています。
右の図は、ナノメートルスケールでの、細孔サイズの分布を示しています。ここでX軸の単位は上の図の千分の一になっています。
図中のa, b, c, d, は上の図のa, b, c, d, の試料にそれぞれ対応しているわけではありません。任意のマイクロメートルサイズの細孔を持つ試料について、右の図の範囲で任意のナノメートルサイズの細孔を保有させることが可能です。
それでは、このような構造の材料は、実際にどのような分野で応用が期待できるのでしょうか?
例えば、選択分離、固体触媒反応などへ利用すると、大きな細孔が速い物質輸送を、小さな細孔が機能表面の創製を担うことにより、優れた特性を示すことが期待されます。従来の様々なプロセスを一新するだけの、力を秘めているのです。
このような構造を持つ材料の合成は、当初、京都大学の中西・曾我により報告され、その後高速液体クロマトグラフ分析用のカラムとして実用化されました。
現在、当研究室では、この材料の固体触媒への応用を目的とした研究を精力的に進めています。詳細は下記論文を参照ください。近日中にも順次続報が掲載されていく予定です。
溶液からのセラミックス作製において、相分離を誘起し、その過渡的構造を凍結することにより、このようなマイクロメートルサイズに特異な形状を持つ無機材料を作製できます。
詳細な説明はまた時間の有るときに追加しましょう。
この材料の有効性は、固体触媒にとどまらず、様々な分野での応用が期待できるでしょう。この材料の具体的な使い道を私たちと一緒に考えてみませんか?