脱水反応では、グリセリンの2種類の水酸基(1級と2級)のいずれを先に引き抜くかで生成物の選択性が決まる。式(1)の1,3-プロパンジオールへの変換は醗酵法による技術が2003年にDuPontより発表されている[2]。反応液1L当り140gの生産が可能であるが、このプロセスではグリセリンの代わりにより安価な糖液の醗酵によっても1,3-プロパンジオールの製造が可能であり、2006年末に5万t/yの生産が開始された。式(2)のアクロレインへの2分子脱水は酸触媒を用いると進行する。中間体のヒドロキシアルデヒドが不安定でアクロレインへと容易に脱水するが、ヒドロキシアセトンを副生するためアクロレイン選択率は満足できるほど高くない[3]。2005年以降、固体酸を用いたアクロレイン製造に関する特許が多く報告されているが、触媒寿命に課題が残る。式(3)による1,2-プロパンジオールへの変換では、1級の水酸基の脱離が優先したときに可能であり、1段目の脱水反応が銅触媒上で90%以上の選択率で進行することが知られているので、2段目の水素化を行うことで実現できる [4]。アクロレインはアクリル酸、プロパノール、プロパナール、プロピオン酸へと変換可能であり、また、ジオールはポリマー原料になるため、グリセリンはC3化合物の出発原料として期待できる。
グリセリンの酸化反応では、花王の研究グループがBi-Pt系の触媒を用いたジヒドロキシアセトンへの空気酸化を発表して以来[5]、反応条件の変更により特定の化合物を選択的に生成できることが多数報告されている。その後、カーボン担持Pd、Au、二元金属触媒も同様の触媒活性を持つことが報告されている。生成物のカルボン酸類は脱炭酸を経て分解するので、脱水反応と同様、逐次反応の中間体にあたる特定の化合物を如何に選択的に生成できるかが触媒プロセスのキーとなる。
1) 触媒49, No.4, 254-291 (2007).
2) C. E. Nakamura, G. M. Whited, Current Opinion in Biotechnology, 14, 454 (2003).
3) L. Ott, M. Bicker, H. Vogel, Green Chem., 8, 214 (2006); E. Tsukuda, S. Sato, R. Takahashi, T. Sodesawa, Catal. Commun., 8 (2007) in press.
4) C. W. Chiu, M. A. Dasari, G. J. Suppes, W. R. Sutterlin, AIChE J., 52, 3543 (2006).
5) H. Kimura, K. Tsuto, T. Wakisaka, Y. Kazumi, Y. Inaya, Appl. Catal. A, 96, 217 (1993).
2007.09.19触媒討論会予稿を修正(2007.09.22)