グリセリンの変換プロセスに関する研究動向

概説

 植物由来の燃料油に関心が集まる中で、油脂からバイオディーゼル(脂肪酸エステル)を生産するのに伴いグリセリンが大量に副生する。資源としての有効利用が模索されているグリセリンの有用化学品への直接変換プロセスの研究動向についてレポートする。

  1. 緒言
    化石資源の燃焼による二酸化炭素の増大による地球温暖化の進行の加速が憂慮されている。その防止に向けて、再生可能資源の有効利用が注目されており、バイオマス資源の利用に関する特集が触媒誌に掲載されたばかりである[1]。再生可能資源の中でも、糖質の醗酵によるいわゆるバイオエタノールの製造と油脂の転換によるバイオディーゼルは燃料としての用途からそれらの生産量の合計は2005年で年間4千万トンにせまるといわれている(2012年には7千万トン!?)。バイオディーゼル製造時には、その生産量の約1/10の量の粗製グリセリンが副生し、多くは廃棄されている。グリセリンを資源として有効利用するための変換プロセスに関する研究動向をまとめた。

  2. 研究動向
    グリセリンを水蒸気改質などのプロセスで水素と二酸化炭素に分解して資源化する試みや高圧下でグリコールなどに変換する研究も報告されている。水素などのエネルギー物質への変換では、選択的な分解反応が望まれるが、ここでは、グリセリンのC3骨格を残したまま化学原料への変換を中心にまとめた。グリセリンの変換プロセスは、脱水反応と酸化反応に大別できる。

    脱水反応では、グリセリンの2種類の水酸基(1級と2級)のいずれを先に引き抜くかで生成物の選択性が決まる。式(1)の1,3-プロパンジオールへの変換は醗酵法による技術が2003年にDuPontより発表されている[2]。反応液1L当り140gの生産が可能であるが、このプロセスではグリセリンの代わりにより安価な糖液の醗酵によっても1,3-プロパンジオールの製造が可能であり、2006年末に5万t/yの生産が開始された。式(2)のアクロレインへの2分子脱水は酸触媒を用いると進行する。中間体のヒドロキシアルデヒドが不安定でアクロレインへと容易に脱水するが、ヒドロキシアセトンを副生するためアクロレイン選択率は満足できるほど高くない[3]。2005年以降、固体酸を用いたアクロレイン製造に関する特許が多く報告されているが、触媒寿命に課題が残る。式(3)による1,2-プロパンジオールへの変換では、1級の水酸基の脱離が優先したときに可能であり、1段目の脱水反応が銅触媒上で90%以上の選択率で進行することが知られているので、2段目の水素化を行うことで実現できる [4]。アクロレインはアクリル酸、プロパノール、プロパナール、プロピオン酸へと変換可能であり、また、ジオールはポリマー原料になるため、グリセリンはC3化合物の出発原料として期待できる。

    グリセリンの酸化反応では、花王の研究グループがBi-Pt系の触媒を用いたジヒドロキシアセトンへの空気酸化を発表して以来[5]、反応条件の変更により特定の化合物を選択的に生成できることが多数報告されている。その後、カーボン担持Pd、Au、二元金属触媒も同様の触媒活性を持つことが報告されている。生成物のカルボン酸類は脱炭酸を経て分解するので、脱水反応と同様、逐次反応の中間体にあたる特定の化合物を如何に選択的に生成できるかが触媒プロセスのキーとなる。

    1) 触媒49, No.4, 254-291 (2007).

    2) C. E. Nakamura, G. M. Whited, Current Opinion in Biotechnology, 14, 454 (2003).

    3) L. Ott, M. Bicker, H. Vogel, Green Chem., 8, 214 (2006); E. Tsukuda, S. Sato, R. Takahashi, T. Sodesawa, Catal. Commun., 8 (2007) in press.

    4) C. W. Chiu, M. A. Dasari, G. J. Suppes, W. R. Sutterlin, AIChE J., 52, 3543 (2006).

    5) H. Kimura, K. Tsuto, T. Wakisaka, Y. Kazumi, Y. Inaya, Appl. Catal. A, 96, 217 (1993).

    2007.09.19触媒討論会予稿を修正(2007.09.22)


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