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環境マネジメント工学研究室

http://chem.tf.chiba-u.jp/introduction.html
教授 松野泰也
(工学部15号棟)
助教 吉村 彰大
(工学部15号棟)

研究内容

有機王水を用いた湿式製錬システムの開発

 当研究室では、ハロゲン化銅を含有するジメチルスルフォキシド(DMSO)や炭酸プロピレン溶媒が、貴金属やレアメタルを溶解することを発見しました(特許第6196662)。この溶媒を「有機王水」と呼んでいます。有機王水を用いた革新的湿式製錬システムの開発に取り組んでいます。

  

その1 使用済み電子機器からの貴金属・レアメタル回収システムの開発

 携帯電話、パソコンなど電子機器には、貴金属、レアメタル、銅などの様々な金属が使用されています。社会中の製品に蓄積されているこれらの金属を回収し、有効活用することが重要な課題になっています。

 使用済み電子機器から回収されたCPU(左)および電子基板を粉砕したもの(右)。これらの中には、天然の鉱石以上の貴金属やレアメタルが含有されています。

 当研究室では、有機王水を用いることで、70℃前後の温度において金やパラジウムなどの貴金属やレアメタルを短時間で溶解できるのみならず、水を添加することで容易に析出させる(回収する)ことができることを見出しました。

 本系を用いて貴金属やレアメタルの溶解および析出による回収を検討した既存研究事例は国内外に無く、この系は低温で劇物を使用しない経済的かつ環境調和型の貴金属・レアメタルのリサイクルシステムの構築を可能にします。純金属および合金を用いた溶解と析出の基礎的な研究をもとに、使用済み電子機器からの貴金属とレアメタルの回収実験を行っています。

  

その2 従来型の湿式製錬が困難とされてきた黄銅鉱などの鉱石への適用

 銅は世界で3番目に生産量の大きな金属素材です。世界で産出されている銅の多くは黄銅鉱(CuFeS2)から生産されていますが、近年、その品位の低下が顕著となっています。黄銅鉱に対しては、硫酸水溶液を用いる既存の湿式製錬法は、銅の浸出速度が著しく遅くなるため適用できません。当研究室では、このような鉱石に対しても有機王水を用いた革新的湿式製錬システムの開発に取り組んでいます。

 有機王水を用い、100℃にて2時間の浸出により、黄銅鉱中の銅成分は完全に溶解できます。上の写真は、黄銅鉱を溶解し、残渣をろ過したろ液を冷却することにより析出した硫黄の結晶。

 上の写真は、残渣の光学顕微鏡写真。輝いて見えるのは黄鉄鉱(FeS2)で、有機王水は、経済価値の小さい黄鉄鉱やヒ素などは溶解せず、経済価値の高い銅や金などを選択的に溶解することが分かってきました。

固体王水を用いた白金属リサイクルシステムの開発

 当研究室では、塩化鉄(FeCl2)と他の塩化物の混合溶融塩を「固体王水」として利用し、自動車・建設機械用触媒からの白金族金属のリサイクルシステムの開発に取り組んでいます。

 自動車や建設機械の排気ガス浄化に利用される触媒には、白金族金属が多く含有されています。触媒スクラップからのリサイクルによる、これらの元素の有効活用が重要な課題になっています。

 上の写真は、実際の建設機械から回収された使用済みの触媒(左)と、それを粉砕したもの(右)です。これらには、白金(Pt)やパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった、高価値な白金族金属が多く含有されています。含有濃度が鉱石の数百倍から数千倍程度になることも珍しくありません。

 当研究室では、この自動車用触媒を「固体王水」で処理し、含有される白金族金属を抽出するシステムの研究を行っています。王水や高温の溶融金属などを用いる従来の手法よりも穏やかな条件で処理が可能なことに加え、複数の元素を単純なプロセスで分離・回収することで、システム全体で環境負荷の軽減を図っています。

 これまでに、白金やパラジウムについて、「固体王水」による溶解、および高純度での回収が確認されています。さらに、それぞれが共存する場合や合金を処理した場合でも、上図に示すようなプロセスで分離・回収が可能なことが確認されています。

 白金族金属同士の分離には、通常複雑なプロセスが必要となり、また廃液の発生やエネルギー消費の大きさが問題となっています。一方、「固体王水」による分離ではごく単純な固液分離のみで分離・回収が可能なことから、経済的、かつ環境調和型のリサイクルシステムとなりえます。

 今後は、上図に示すようなプロセスを経て、ロジウムなども含有する自動車用触媒から各元素を分離・回収するシステムの開発を進めていきます。加えて、イリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)など他の白金族金属への適用も進め、白金族金属の効率的な利用に向けた応用研究を実施していきます。

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