ヨウ素は融点付近では蒸気圧が大きく、急激に

加熱しないかぎり融解せずに昇華するという性質

を持っています。同じ族であるハロゲン(フッ素、

塩素、臭素)とは違った特異な性質を持っていま

す。

 ヨウ素は人類の生存に必要な元素であり、古く

から医薬用に利用されています。現在では飼料、

写真、造影、工業用触媒、安定剤、色素、農薬、

殺菌・消毒、電子材料等の広い産業分野で利用さ

れています。

 日本は、世界のヨウ素生産の約40%を占め、

特に千葉県が日本の産出量の大きな部分を占め

ています。

 有機合成反応でも、ヨウ素分子の穏和な酸化能

や二重結合に対する配位能などの性質を用いて様

々な反応が報告されています。また、ヨウ素を含

む化合物は、ヨウ素原子のついている部分をほか

のパーツに変化することが容易であることから、

現在の有機合成化学において重要な役割を担って

います。このヨウ素のもつ特性を利用した、新

しい有機合成反応を開拓しています。

 

 

<ヨウ素単体を用いた反応>

・ヨウ素化化合物の効率的合成法の開発

 ヨウ素化合物はさまざまな生理活性物質や機能性材料の合成中間体として利用されています。われわれは、三重結合を含むポリエン化合物に対するヨウ素との反応によって効率的にヨードベンゼン誘導体が得られることを見いだしました。この反応は光照射によってメチルチオ基(MeS-)がついている二重結合の幾何配置を変化させることですみやかに進行するようになります。さらに、ヨウ素の当量を半分にしてもヨウ素分子中のヨウ素原子を効率よく生成物に取り込むことが可能な反応です。これは、反応で生じてくるI-S-Meが効率よく不均化してヨウ素を再生することを利用したものです。また、同様の反応によって興味深いヨウ素化されたチオアミジウム塩が生成することを見出しました。

 

 

 

 

・ヨウ素を活性化源とした官能基変換

 ヨウ素は多重結合に配位することで、多重結合を活性化することができます。上記のヨウ素化反応もこのことを利用したものです。さらにわれわれは、スルホキシドとの連続的な反応によって、三重結合の酸化硫黄部分の還元および酸化が同時に進行する現象を見出しました。反応機構を詳細に検討することで、酸化で導入された酸素原子が水や酸素分子であることをも明らかにしました。さらに、添加剤を検討することでそれぞれの生成物が主生成物として得られる方法を開拓しました。

 

 

 

 

<ヨウ化水素を用いた反応>

・ヨウ化水素の特性を利用した無溶媒反応の開発

 ヨウ化水素は高い酸性度と還元能を有する物質であり、試薬としては水溶液として市販されています。工業的には、基板表面のエッチング材として、ガス状で利用可能です。試薬としてこのガス状態を利用することで、反応後に減圧にすることで簡単に取り除くことができます。そのため、反応や後処理に置いて溶媒を用いない反応が可能となります。われわれは、ガス状のヨウ化水素と有機物を作用させることで、強酸として働くことによるエーテル開裂反応や、還元剤として働くことによるニトロ基やスルホキシドの還元反応無溶媒化に成功しました。これらの反応は、市販の水溶液を用いた場合には進行しないことから、無溶媒化だけでなく反応性の向上にも有効な手法であることを明らかにしています。

 

 

 

 また、ヨウ化水素ガスが炭素−炭素結合形成反応にも利用可能であることも明らかにしています。ケトンとの反応では、2分子のケトンが作用してケトンのα位アルキル化反応が進行することを見出しました。この反応では、ヨウ化水素が『酸』と『還元剤』として作用するために進行していると考えています。さらに、ベンジルアルコール類やスチレン類によるインダン骨格形成反応が進行することも見出しました。

 

 

 

・ヨウ化水素による新規反応開発

 ヨウ化水素(HI)はプロトン酸としてさまざまな反応に利用されています。また、このヨウ化水素にさらにヨウ素が配位することでポリヨウ化水素(HI2n+1)が生成します。われわれは、ヨウ化水素とポリヨウ化水素の反応性の違いに注目して、ヨウ素の配位量の違いによって生成物が変化する現象を見いだしました。この反応は、トシル基(TolSO2-)が1,2-転位をするという報告例の少ない反応を含む芳香環化反応であり、対アニオンに束縛されていないプロトンが選択的にトシル基の根元にプロトン化することで進行していると考えています。こうした嵩高い対アニオンとしてのヨウ化物イオンの性質を活用することで、ヨウ化水素によるエナミン化合物の環化反応の開発にも成功しました。この反応では、反応させる化合物をかえることでキノリン化合物とジヒドロキノリン化合物それぞれが高い収率で得られることを見出しています。

 

 

 

 

 

 このほかにも、硫黄を利用した反応や機能性追及でもヨウ素をつかっており、相乗的に研究を進めています。

 

 

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