2004年のオープンキャンパス(工学部説明会)で研究室見学を担当することになり、高校生向けに化学に関心を持たせる内容として何か化学実験をしようということになりました。 どうせやるなら、視覚的に関心を引ける実験をしたい。さらに研究室の研究内容と多少は関連のある実験をしたい。そして高校生に理解できる範囲の化学で解説できることが望ましい・・・・。なんかいい実験無いかなぁ、と考えていましたが・・・ ところで当研究室ではケイ酸水溶液を原料とした固体触媒の作製を行っています。特に最近力を入れているのが、水ガラスが固まる(ゲル化する)条件を制御することによる生成するシリカゲルの細孔構造制御。水ガラス中のシリカ成分が固まる、まさにそのものの初学者向けの実験ならケミカル・ガーデンがあるじゃないということで、ぶっつけ本番でやってみたのが、上の写真です。 レシピを公開しましょう。
成長の進行
中学生相手の実験なら、こうしたものの成長する様子を眺めて、きれいでしょ、化学って面白いでしょ、で終わりにできるのですが、相手は高校生、しかもこちらは化学の最先端の研究を行っている、しかも水ガラスを扱っている研究室。付け焼刃のぶっつけ本番でも、しっかりした考察は必要です。
というわけで、何でこんな構造が成長するのでしょうか? 水ガラスはアルカリに溶解させたケイ酸の水溶液で、強アルカリ性です。このケイ酸はpHが中性付近になると急速に凝集します。一方の金属塩は強酸と弱塩基の塩なので溶解すると弱酸性。 希釈した水ガラス溶液中に投入した金属塩結晶は表面から徐々に溶解します。そうすると溶解した部分の溶液のアルカリが中和されて局所的に中性〜酸性になり、ケイ酸が金属イオン結晶を囲むように凝集して固化する(シリカゲルが生成する)のです。 この先の成長過程はモノの本を見ると以下のように説明されています。 この結果、金属イオンの濃厚溶液と水ガラス溶液が薄いシリカゲルの膜で隔てられることになります。そうすると浸透圧により金属イオンの濃度を下げるために水が外側から内部に浸透してきます。結果、シリカゲルの膜の上部が破れ金属イオンの液が漏れ出します。そうするとまた漏れ出した液と水ガラスとの界面でシリカゲル膜が生成します。このプロセスが繰り返されることにより、金属イオンの色のついた樹枝状のシリカゲルが底から上に向かって成長するのです。 このような成長は電気分解などで結晶が成長しているのと見た目は同じように見え、「結晶が成長します」と説明している例も見受けられます。しかし、実はケミカル・ガーデンで成長する樹枝状の固体は結晶ではありません。非晶質(アモルファス、もしくはガラス質)のシリカゲルです。 このシリカゲルは無数の細かい孔が開いておりその中を液が浸透できます。当研究室で作製するシリカゲルも化学組成は同じ。孔が開いているのも同じ。ケイ酸が固化する、仕方を色々に制御することで孔の構造を制御でき、様々な特性を持つ材料が作製できるのです。 また、金属塩の種類によって色が変わるのは金属イオン中のd電子と光の相互作用による吸収波長の変化によりますが、樹枝状ゲルの成長の仕方も違うようです。金属塩の溶解度やその溶液のpH、金属水酸化物の安定性のpH依存性、様々な要素が関係していると思います。 なお水ガラスの種類によってもケイ酸の原子レベルでの結合構造が異なるので、成長の仕方に違いがでるかもしれません。今回使用した3号ケイ酸は工業グレードで試薬会社は取り扱っていません(多分)。通常、ラボで入手可能な試薬として出ている水ガラスは、粘度の非常に高いものです。3号ケイ酸との比較も面白いかもしれません。
なお、ケミカル・ガーデンの後始末ですが、中性になるように酸を加えかき混ぜます。このとき、pHが中性付近になるよう添加速度を制御してあげると、溶液全体が固まります。結構見ていても面白いものですし、pHとケイ酸溶液の固化の関係がよくわかりますので、興味のある方はどうぞ。 濃い酸を使って、pHを一気に酸性にすると、一部の沈殿が生成しますが、液体中にまだケイ酸が残っていて、しばらくすると同じように固まってしまうことが良くあります。中和した後はそのまま放置して自然乾燥して有害固形廃棄物とした方がいいかもしれません。
後処理したらこんな感じ(一気に酸性にしてみた)
ということで次回のためのアイデア。
またご自身でやってみたいという方のためのアドバイス。
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