触媒調製法の簡単な説明


CVD法

CVD(Chemical Vapor Deposition:気相蒸着)法は、原料成分を気相から導入し、固体表面に析出させる材料調製法であり、各種材料・デバイス等の合成方法として工業的にも広く用いられている。この手法は担体に酸化物多孔体などを用いることにより、表面構造の制御された触媒の調製法として応用することができる。気相成分の輸送(流通・拡散)が律速となる場合には不均一な蒸着が起こるため、担体・原料ガス成分にみあった適切なCVD条件を選ぶ必要がある。

 当研究室では、ホウ素、シリコンのアルコキシドやアルミニウム、チタニウム、ジルコニウムの塩化物を原料ガスとして用い、シリカやアルミナ上に蒸着させた触媒を調製し、その構造解析、触媒活性評価(シクロヘキサノンオキシムのε−カプロラクタムへの高収率気相ベックマン転位反応、ベンゼンのシクロヘキシル化、クメンのクラッキング等)を行っている。この研究成果により、佐藤智司助教授は触媒学会の平成9年度奨励賞を受賞している。


有機酸法

 有機酸法は、有機酸−金属錯体の溶液からの複合酸化物の低温合成法として開発された。通常の固相反応により材料を合成する場合、高温での焼結・反応がひつようであり、しばしば組成変動(局所的に一部成分が偏在することによるモザイク様の組成の揺らぎ)が物性値やその再現性に影響与える。通常の無機塩溶液からの液相合成(共沈法など)により、組成変動を制御できる場合もあるが、沈殿生成、乾燥段階において個々の成分が別々に凝集してしまうこともしばしば起こる。しかし、金属イオンを各種有機酸(クエン酸など)との錯体とすると、乾燥時の凝集が押さえられ、異種元素が原子レベルで均一に混ざった有機−無機前駆体を簡単に調製することが可能となる。これを焼成することにより、低温で容易に原子レベルで均一に混合された複合酸化物を合成できる。また、比較的比表面積の大きなものを得ることができる。

 当研究室では、この手法を酸塩基触媒調製(MgO-CeO2など)、担持金属触媒(Ni-MgO,Ni-Al2O3,Ni-ZrO2等、およびCu,Co系)調製に応用し、構造解析、触媒活性評価を行っている。
 現在までに本法による担持Ni触媒は、共沈法などの従来の手法により調製した触媒に比べ、ベンゼンの水素化分解、CO2の気相水素化等の反応において高活性であることを報告している。また、本法によるNi-MgO触媒は細孔サイズが比較的大きいことから、液相水素化反応において拡散の影響を受けにくく、大きなサイズの分子の水素化においてはラネーニッケル等に比べて遥かに高い活性を示すことを見出している。これらの研究成果は、中山智弘氏(平成9年3月千葉大学博士(工学)の学位取得)の博士論文としてまとめられている。


水熱合成法

 水熱合成法は、高温の水とくに高温高圧の水の存在の下に、材料を合成する手法であり、様々な結晶(水晶・ルビー・ゼオライトなど)が工業的に量産されている。工業的には300℃、数百気圧条件下の水熱合成も行われているが、当研究室においては、よりマイルドな数十気圧以下(80−200℃程度の温度範囲)の処理により非晶質及び結晶性の固体酸・塩基触媒を調製し、構造解析、活性評価を行っている。


ゾル−ゲル法

 ゾル−ゲル法は溶液から出発し、ゲル、ガラス、セラミックス、等の無機材料を合成する方法であり、溶液→ゾル→ゲルの変化の過程を適当にコントロールすることにより、得られる材料の構造・性質を任意に制御することができる。特に中間体であるゲルは、その変化に富んだ多孔構造ゆえに、新しい固体触媒・機能性多孔質材料の合成手段として、世界的に注目を集めている。しかし、どのような方針で合成条件を制御するかによって、お宝にたどりつくことができるか、無駄な廃材を積み上げて終わってしまうのか、明確にわかれてしまう。研究者の手腕の問われる手法である。

 当研究室では、

 等を基礎研究・材料研究として進める一方で、蓄積されたノウハウをもとに  といった、市販の触媒を凌駕する触媒調製法の開発に向けて、研究を精力的に進めている。