Fine Organic Chemistry Lab.
精密有機化学研究室
□ Photo
 
   自然界から発見される生理活性物質の中には優れた医薬品,香料として期待されているものがありますが,その多く
  は複雑な構造のため,今なお化学合成による供給が極めて困難な状況にあります。この問題を解決するために,これま
  でにない合成反応の開発が求められており,本研究室では環境に配慮した固相反応,光反応などを利用する合成法や新
  しい有機金属触媒を用いた合成法の開発を行っています。
 
                                       
最近の研究テーマから

キラル結晶を利用した絶対不斉合成法の開発

 この研究は生命の起源説にも深く関連しているテーマです。アキラルな化合物の中には,結晶化するとキラリティーが発

現するものがあります。この結晶のキラリティーを利用すると,外的な不斉源を用いずに光学活性化合物を得る絶対不斉合
成を達成することができます。例えば,化合物1は不斉中心がなく,キノリン環とアミドの結合も自由に回転するので
キラルです。ところが,分子の運動が制限されている結晶中では自由な結合回転ができずに軸不斉が発現します。1を溶液
から結晶化すると片側の鏡像異性体が集合して結晶を形作る現象が見られます。その結晶を固相で光照射すると,高い光学
純度の多環式複素環化合物を高収率で合成することができます(式1)。

 また、結晶を低温溶媒に溶解させると、結晶中のキラルな分子配座を保持してキラルメモリーとして利用でき、様々な不

斉反応へと応用することができます(式2)。この手法をフローズンキラリティー法と名付け、下記以外にも多くの成功例
を報告しています。
 
可逆反応と動的結晶化を融合した新しい絶対不斉合成法の開発

 簡便に広く応用できる絶対不斉合成法を目指して可逆反応と動的結晶化を融合した新しい絶対不斉合成法を開発

しました。例えば,アキラルなアロイルアクリルアミド3とアミンを溶媒中で攪拌するだけで99%eeのアミノ酸誘導体

が定量的に得られてくる反応を開発しました。この反応では,アミンの3へのMichael反応により,不斉中心を有する

アミノ酸誘導体4が反応系内に結晶として析出してきます。反応の初期にはラセミ体として生成してきますが, 生成

物がコングロメレートを形成する場合には,Michael反応は可逆的であるために,徐々にデラセミ化が進行し,数日後

には一方のエナンチオマーの結晶に収束します。この反応では99%eeの結晶が得られてきます。この方法は様々な

反応系での不斉合成へと展開が可能であり,外的不斉源は必要ありません。

 さらに,アキラルな化合物の溶液に太陽光を照射しながら徐々に溶媒を留去し固化させるだけで99.9%eeの生成

物の結晶を定量的に得る事ができる反応系の開発にも成功しました。さらなる新しい反応系の開発に注力しています。

立体選択的光不斉反応の開発

 有機化合物の光反応を利用した生理活性物質や機能性材料の選択的な合成法の開発や励起状態の反応挙動の解明を行って

います。例えば,自然界の植物に広く存在するフラボノイドの母核であるクロモンを溶液中で光照射すると,選択的にC2キラル

構造の二量体が生成することを見出しました。この反応への添加物の効果や置換基の効果を調べることで新しい不斉合成法

を開発するとともに,生成物を触媒的不斉反応に利用して有用な機能性材料の開発へと展開しています。

 

炭素-窒素結合間に軸不斉を持つ不斉配位子の開発

 触媒的不斉反応に用いられる遷移金属錯体は,反応活性中心となる金属と不斉場を構築する不斉配位子とから構成されま

す。金属としてはパラジウム,ロジウム,銅などがよく利用されていますが,同じ金属を用いても不斉配位子の選択により

生成物の光学純度は大きく変化します。高い光学純度で生成物を得るためには中心金属の近傍に不斉環境が構築されること

が必要であり,このような遷移金属錯体を構築するために,遷移金属が配位する窒素原子に軸不斉を有する不斉配位子の開

発を行っています。これまでに化合物からのような炭素-窒素結合間に軸不斉を持つ不斉配位子の開発に成功しており,

これらを用いた触媒的不斉反応において,高い光学純度で生成物が得られるということを見出しています。このような炭素

-窒素結合間に軸不斉を有するアミン化合物の合成は珍しく不斉配位子として利用された例は,これまでほとんどありませ

んでした。
 

ヒドラゾン-遷移金属触媒を用いた結合形成反応の開発

 最近,ヒドラゾン化合物がパラジウム触媒によるSuzuki反応やHeck反応の配位子として非常に有効であるということを見
出しました。ヒドラゾンは対応するカルボニル化合物とヒドラジンから容易に調製が可能であり,空気中でも安定であるため
遷移金属触媒の配位子として一般的に用いられる有機リン化合物より汎用性が高いと考えられます。現在,ヒドラゾン-遷移
金属触媒を用いた新しい結合形成反応の開発に取り組んでいます。例えば下図のようなヒドラゾンを配位子として利用する
ことにより,さまざまな生理活性化合物の合成へ展開可能なビルディングブロックである非対称1,3-ジアリールプロペン類を
ヨウ化アリール,アリルエステル,アリールボロン酸の三成分から容易に合成することに成功しました。
 
 
 

有機分子触媒を用いる新規不斉反応開発

キラルな化合物は医薬品や香料に広く用いられているものの、エナンチオマー間で生理活性が異なることがあるため、
その一方のみを高い純度で合成する不斉合成は重要です。その効率的手法として、近年では、金属を含まない触媒
である有機分子触媒による不斉合成が注目されています。有機分子触媒は、比較的安価、低毒性、空気や水に安定
であるなどの特徴があり、金属触媒を用いた場合に危惧される生成物の金属汚染も起こりません。
私たちは、新規有機分子触媒の開発と、それによって初めて達成される反応の開発を目指しています。
これまでに、有機分子触媒3を用いた極性転換反応により、α−イミノエステル1とα,β−不飽和カルボニル化合物2の
エナンチオ選択的マイケル反応を達成しています。本生成物5はキラルアミノ酸やδ−ラクトンなど有用な化合物の合成
に応用可能です。
 

新規キラル超原子価ヨウ素(V)試薬の開発と応用

ヨウ素原子は、その小さな電気陰性度や大きな原子半径等の特徴から、オクテット則を満たす8個より多くの電子を有する、
超原子価状態をとることが可能です。超原子価ヨウ素試薬は、メタルフリーで温和な酸化剤として広く用いられており、
キラルな超原子価ヨウ素試薬を用いた不斉酸化反応、及びその有機分子触媒化も近年盛んに研究されています。
しかしながら、3価の超原子価ヨウ素試薬を用いた不斉反応は盛んに研究されている一方、5価の超原子価ヨウ
素試薬に関する報告は限られています。私たちはこれまでに、5価のキラル超原子価ヨウ素試薬7の開発と、
その不斉反応への応用を報告しており、現在、このキラル試薬を用いた新規不斉反応の開発を行っています。

 

最近の研究業績

2017年

1) Organocatalytic Highly Regio- and Enantioselective Umpolung Michael Addition Reaction of α-Imino Esters, Yasushi Yoshida, Takashi Mino, Masami Sakamoto, Chemistry-A Europian Journal, 2017, 23, 12749-12753. (Selected as a Hot Paper)

2) 有機結晶のキラリティーを利用した不斉反応の開発, Masami Sakamoto, Takashi Mino, Yasushi Yoshida, 有機合成化学協会誌, 2017,75(5), 509-521.

3) Indium-catalysed amide allylation of α-iminoamide; highly enantioselective synthesis of amide functionalised α-methylene-γ-butyrolactams, Tetsuya Sengoku, Kana Kokubo, Masami Sakamoto, Masaki Takahashi, Hidemi Yoda, Org. Biomol. Chem., 2017, 15(2), 320-323.

4) Hydrazone-Cu-catalyzed Suzuki-Miyaura-type Reaction of Dibromoalkene with Arylboronic Acid, Kohei Watanabe, Takashi Mino, Chikako Hatta, Eri Ishikawa, Yasushi Yoshida and Masami Sakamoto, Eur. J. Org. Chem., 2017, 3612-3619.

5) Synthesis of o-Allyloxy(ethynyl)benzene Derivatives by Cu-Catalyzed Suzuki–Miyaura-Type Reaction and Their Transformations into Heterocyclic Compounds, Kohei Watanabe, Takashi Mino, Eri Ishikawa, Miyu Okano, Tatsuya Ikematsu, Yasushi Yoshida, Masami Sakamoto, Kazuki Sato and Kazuhiro, Eur. J. Org. Chem., 2017, 2359-2368.

6) Asymmetric Synthesis by Using Sunlight under Absolute Achiral Conditions, Masami Sakamoto, Koh Shiratsuki, Naohiro Uemura, Hiroki Ishikawa, Yasushi Yoshida, Yoshio Kasashima, and Takashi Mino, Chemistry - A European Journal, 2017, 23, 1717-1721.

2016年

1) Asymmetric synthesis of amino acid derivative from achiral aroylacrylamide by reversible Michael addition and preferential crystallization, Yuki Kaji, Naohiro Uemura, Yoshio Kasashima, Hiroki Ishikawa, Yasushi Yoshida, Takashi Mino, Masami Sakamoto, Chemistry - A European Journal,2016, 22, 16429–16432.

2) Facile Synthesis of Amino Acid-derived Novel Chiral Hypervalent Iodine(V) Reagents and Their Applications, Yasushi Yoshida, Akina Magara, Takashi Mino, Masami Sakamoto, Tetrahedron Lett., 2016, 57, 5103-5107.

3) Asymmetric Synthesis Using Chiral Crystals of Coumarin-3-carboxamides and Carbenoids, Fumitoshi Yagishita, Mamoru Kato, Naohiro Uemura, Hiroki Ishikawa, Yasushi Yoshida, Takashi Mino, Yoshio Kasashima, Masami Sakamoto, Chem. Lett, 2016, 45, 1310-1312.

4) Chiral N-1-Adamantyl-N-trans-cinnamylaniline Type Ligands: Synthesis and Application to Palladium-Catalyzed Asymmetric Allylic Alkylation of Indoles, Takashi Mino, Kenji Nishikawa, Moeko Asano, Yamato Shima, Toshibumi Ebisawa, Yasushi Yoshida, Masami Sakamoto, Org. Biomol. Chem., 2016, 14, 7509-7519.

5) Reversible changes of axial chirality of naphthamide by photochemical and thermal reactions, Nobuo Yasuike, Fumitoshi Yagishita, Kazushi Sunaoshi, Yasuhiro Hasegawa, Takashi Mino, Masami Sakamoto, J. Photochem. Photobiol. A: Chem., 2016, 331, 110-114.

6) Palladium–catalyzed Mizoroki–Heck Reaction Using Imidazo[1,5-a]pyridines, Fumitoshi Yagishita, Koh Nomura, Saki Shiono, Chiho Nii, Takashi Mino, Masami Sakamoto, Yasuhiko Kawamura, ChemistrySelect, 2016, 1, 4560-4563.

7) Hydrazone-Palladium Catalyzed Annulation of 1-Cinnamyloxy-2-ethynylbenzene Derivatives, Kohei Watanabe, Takashi Mino, Tatsuya Ikematsu, Chikako Hatta, Yasushi Yoshida, Masami Sakamoto, Org. Chem. Front., 2016, 3, 979-984.

8) BINOL-Al Catalyzed Kinetic Resolution of Citronellal Analogs; Synthesis of a Variety of Fragrances, Hisanori Itoh, Hironori Maeda, Shinya Yamada, Yoji Hori, Takashi Minoand Masami Sakamoto, Tetrahedron: Asymm., 2016, 27, 698-705.

2015年

1) Total Resolution of Racemates by Dynamic Preferential Crystallization, Masami Sakamoto, Takashi Mino, T. in Advances in Organic Crystal Chemistry, Comprehensive Reviews 2015, Eds. R. Tamura, M. Miyata, Springer, 2015, 445-462.

2) Indium-catalyzed amide allylation of N-carbonyl imides; formation of azaspiro-γ-lactones via ring opening-reclosure, Tetsuya Sengoku, Yusuke Murata, Yuwa Aso, Ai Kawakami, Toshiyasu Inuzuka, Masami Sakamoto, Masaki Takahashi, Hidemi Yoda, Org. Lett. 2015, 17(23), 5846-5849.

3) Phosphine-Catalyzed β,γ-Umpolung Domino Reaction of Allenic Esters: Facile Synthesis of Tetrahydrobenzofuranones Bearing a Chiral Tetrasubstituted Stereogenic Carbon Center, Shinobu Takizawa, Kenta Kishi, Yasushi Yoshida, Steffen Mader, Fernando Arteaga Arteaga, Shoukou Lee, Manabu Hoshino, Magnus Rueping, Makoto Fujita, Hiroaki Sasai, Angew. Chem., Int. Ed., 2015, 54, 15511-15515.

4) Indium-Catalyzed Amide Allylation of N-Carbonyl Imides: Formation of Azaspiro-γ-lactones via Ring Opening-Reclosure, Tetsuya Sengoku, Yusuke Murata, Yuwa Aso, Ai Kawakami, Toshiyasu Inuzuka, Masami Sakamoto, Masaki Takahashi, Hidemi Yoda, Org. Lett., 2015, 17, 5846-5849.

5) Hydrazone-palladium catalyzed annulation of 1-allyl-2-bromobenzene derivatives with internal alkynes, Kohei Watanabe, Takashi Mino, Chikako Hatta, Shisei Ito, Masami Sakamoto, Org. Biomol. Chem., 2015, 13, 11645-11650.

6) An enantioselective organocatalyzed aza-Morita-Baylis-Hillman reaction of isatin-derived ketimines with acrolein, Yasushi Yoshida, Makoto Sako, Kenta Kishi, Hiroaki Sasai, Susumi Hatakeyama, Shinobu Takizawa, Org. Biomol. Chem., 2015, 13, 9022-9028.

7) Involvement of Lipocalin-like CghA in Decalin-Forming Stereoselective Intramolecular [4+2] Cycloaddition, Michio Sato, Fumitoshi Yagishita, Takashi Mino, Nahoko Uchiyama, Ashay Patel, Yit Heng Chooi, Yukihiro Goda, Wei Xu, Hiroshi Noguchi, Tsuyoshi Yamamoto, Kinya Hotta, Kendall N Houk, Yi Tang, Kenji Watanabe, ChemBioChem, 2015, 16, 2294-2298.

8) BICMAP-rhodium(I)-catalyzed asymmetric 1,4-addition of arylboronic acids to coumarins, Takashi Mino, Kazuki Miura, Hiroyuki Taguchi, Kohei Watanabe, Masami Sakamoto, Tetrahedron: Asymm., 2015, 26, 1065-1068.

9) Enantioselective and aerobic oxidative coupling of 2-naphthol derivatives using chiral dinuclear vanadium(V) complex in water, Makoto Sako, Shinobu Takizawa, Yasushi Yoshida, Hiroaki Sasai, Tetrahedron: Asymm., 2015, 26, 613-616.

10) A new class of C2 chiral photodimer ligands for catalytic enantioselective diethylzinc addition to arylaldehydes, Yuki Ueda, Fumitoshi Yagishita, Hiroki Ishikawa, Yuki Kaji, Nozomi Baba, Yoshio Kasashima, Takashi Mino, Masami Sakamoto, Tetrahedron, 2015, 71, 6254-6258.

11) Chiral N-(tert-butyl)-N-methylaniline type ligands: Synthesis and application to palladium-catalyzed asymmetric allylic alkylation, Takashi Mino, Minato Asakawa, Yamato Shima, Haruka Yamada, Fumitoshi Yagishita, Masami Sakamoto, Tetrahedron, 2015, 71, 5985-5993.