Research
自然界から発見される生理活性物質の中には優れた医薬品,香料として期待されているものがありますが,多くは複雑な構造のため,今なお化学合成による供給が極めて困難な状況にあります。この問題を解決するためにこれまでにない合成反応の開発が求められており,本研究室では環境に配慮した固相反応,光反応などを利用する合成法や新しい有機金属触媒を用いた合成法の開発を行っています。
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最近の研究テーマから
◆炭素-窒素結合間のねじれを利用した不斉配位子の開発
◆遷移金属触媒を用いた結合形成反応の開発
◆有機分子触媒を用いる極性転換反応による新規不斉合成法開発
◆キラル超原子価ハロゲン化合物の開発と応用
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◆炭素-窒素結合間のねじれを利用した不斉配位子の開発
触媒的不斉反応に用いられる遷移金属触媒は、反応活性中心となる金属と不斉場を構築する不斉配位子とから構成されます。金属としてはパラジウム、ロジウム、銅などがよく利用されますが、同じ金属を用いても不斉配位子の選択により、反応活性だけでなく、得られる生成物の光学純度が大きく変化します。本研究室では、高い収率かつ高い光学収率で生成物を得るための高機能な不斉配位子の開発を目指し、これまでに化合物1のような不斉源として炭素-窒素結合間のねじれを利用した不斉配位子の開発を行ってきました。また化合物2のように窒素上の置換基の不斉環境を利用して炭素-窒素結合間のねじれを制御した不斉配位子や、化合物3のような容易に分離可能なジアスレテオマーを不斉配位子として利用する方法なども開発しています。
Org. Biomol. Chem., 2019, 17, 1455.
Synlett., 2021, 32, 532.
Org. Biomol. Chem., 2021, 19, 10385.
◆遷移金属触媒を用いた結合形成反応の開発
本研究室では、これまでにヒドラゾン化合物がパラジウム触媒によるSuzuki反応やHeck反応の配位子として非常に有効であるということを見出しています。さらに反応式1のような分子内環化を経るベンゾフラン環構築法の開発を行ってきました。最近ではクライゼン転位を経ることで7位に選択的に置換基を持つベンゾフランの合成(反応式2)にも成功しています。さらに反応式3のようにシンナミル基を持つP,オレフィン型配位子がパラジウム触媒によるインドール環構築反応において有効であることも見出しています。
Org. Biomol. Chem., 2018, 16, 575.
Eur. J. Org. Chem., 2019, 1635.
J. Org. Chem., 2022, 87, 7365.
◆有機分子触媒を用いる極性転換反応による新規不斉合成法開発
キラルな化合物は医薬品や香料に広く用いられているものの,エナンチオマー間で生理活性が異なることがあるため,その一方のみを高い純度で合成する不斉合成は重要です。その効率的手法として,近年では,金属を含まない触媒である有機分子触媒による不斉合成が注目されています。有機分子触媒は,比較的安価,低毒性,空気や水に安定であるなどの特徴があり,金属触媒を用いた場合に危惧される生成物の金属汚染も起こりません。私たちは,新規有機分子触媒の開発と,それによって初めて達成される反応の開発を目指しています。
これまでに,反応経路の効率化に有益であるため最近注目されている,有機分子触媒を用いる極性転換反応において3を触媒とすることにより,α−イミノエステル1やチオエステル2,およびα−イミノアミド5とα,β−不飽和カルボニル化合物のエナンチオ選択的マイケル付加反応を達成しています。その結果,非天然アミノ酸4や続くカスケード反応も進行したエナミド6とアミナール7が高収率,高い化学,位置およびエナンチオ選択性で得られる事を見出しています。
◆キラル超原子価ハロゲン化合物の開発と応用
ヨウ素原子や臭素原子といったハロゲン原子は,その小さな電気陰性度や大きな原子半径等の特徴から,オクテット則を満たす8個より多くの電子を有する,超原子価状態をとることが可能です。近年,超原子価ヨウ素化合物であるヨードニウム塩がハロゲン結合供与体として機能することが明らかとなっており,その有機合成への応用が注目されています。我々は,これまでに触媒としての応用例が無いブロモニウム塩に着目し,そのハロゲン結合を駆動力とする触媒反応開発を目指して研究しています。例えば,ブロモニウム塩8はインドールとエノンのマイケル付加反応においてハロゲン結合触媒として機能することを明らかにしており,生成物が最高96%収率で得られることを見出しています。これは,超原子価臭素化合物が触媒として機能することを示した世界初の例です。
さらに最近,超原子価臭素部位をキラル骨格へ導入したキラルブロモニウム塩を独自にデザイン・開発しハロゲン結合不斉触媒として適用したところ,0.5 mol%という少ない触媒量を添加するだけで生成物が高収率,最高96% eeで得られることが明らかとなっています。これは,キラル超原子価臭素化合物を開発したのみならず,それが不斉触媒として応用できることを示した初めての例です。超原子価臭素のみならず,同様の手法でキラル超原子価ヨウ素やキラル超原子価塩素の合成も行うことが可能であり,例えばかさ高いチオールのイミンへの付加反応においては,超原子価ヨウ素化合物が優れた触媒として機能することを見出しています。我々は開発したこれらの触媒を用いた新規反応の開発を目的として,現在研究を進めています。