進化分子工学

自然界にみられる数々の生体分子は,すべて「進化(evolution)」によって生み出された。私たちは,実験室内でこの「進化」プロセスを人工的に超高速に行うことにより、数々の新しい分子機能の開発に成功してきました。私たちは,いわゆる,進化分子工学系の研究室です。

進化分子工学について;まずはWikiでもみてください。

1. Evolution makes everything

いわゆるダーウィン的な進化プロセスには,以下の2つの要素があります。

(1)多様性の創出

(2)それに続く機能選択(淘汰)

進化分子工学(進化をつかった分子工学)では、このプロセスを実験室内で「早回し」に繰り返し、望む機能分子を高速に創出します(下に,タンパク質の進化工学の模式図を示します)。

図・分子機能の漸進的進化
図・分子機能の漸進的進化

(1)ライブラリデザイン

遺伝子のランダムな場所にアミノ酸変異を導入したり,近縁遺伝子のシャッフリングを行ったりして,何万,何億の「親と似てちょっと異なる」多様な遺伝子集団(ライブラリと呼びます)を創ります。つくったライブラリの中には、ごく稀に,親にはない,我々の望む機能を持つ変異体が含まれているわけです。
遺伝子のランダムな場所にアミノ酸変異を導入したり,近縁遺伝子のシャッフリングを行ったりして,何万,何億の「親と似てちょっと異なる」多様な遺伝子集団(ライブラリと呼びます)を創ります。つくったライブラリの中には、ごく稀に,親にはない,我々の望む機能を持つ変異体が含まれているわけです。

ただし!
この良き分子は,「その他大勢」の無価値な兄弟たちとともに偶然,創られるものであり,圧倒的多数の有象無象の中に埋もれた状態にあります。

(2)「セレクション」・「スクリーニング」

進化工学者の次なる仕事は,何千何万の膨大な有象無象の中から,望む機能を持つものだけを効率的に選抜する技術を開発します。その欲しい分子機能をもつものだけが,生き残るような仕組みを巧妙にデザインします。
その工夫(仕組み)は,求める分子機能それぞれに対して,異なるものとなります。私たちが研究のアイデアを練るとき,最も時間をかけるのがこの段階です。

(3)「進化」は分子デザインにおける「推敲の文学」?

首尾よく(1)(2)ができたら,研究者の手の中には,新しい機能(触媒能,センサ機能,構造材としての機能…etc)があるはずです。たったこれだけで,開発(価値の創造)は完結する。

もし,望むレベルの分子機能を一度に得ることが叶わなければ、一世代目のライブラリの中でいちばん優良なものを選出し、それを親にしてもう一度「多様化→機能選択」を繰り返します。多世代にわたって,多様化と淘汰を繰り返す。こうして漸進的に分子機能を向上してゆけるのが、進化工学の際立った特長です。

この様は,まさしく実験室内で,生体高分子が進化(evolution)していることになる。私たちの仕事は,その分子の進化を高速化+方向付け(direct)するわけです。進化工学が英語で「Directed Evolution」と呼ばれる所以は,ここにあります。

この手法によって、既にたくさんの核酸分子や蛋白質機能が創出されてきました。

いずれも,いわゆる構造に拠る合理的設計では簡単には作り出せないものばかりです。

この「進化工学」業界において,梅野グループは何を目指しているのか?

私たちを特徴づけるのは,複数のタンパク質が共同して実現する,分子「システム」の進化工学を行っていることです。たとえば,新しい酵素をうまく組み合わせれば,まったく新規な構造を持つ生理活性物質の全合成経路が構築できます。また,センサタンパク質や遺伝子制御タンパク質をうまく組み合わせると,複雑な環境情報を統合/処理(判断)して最適な出力を与える,高度な分子ネットワークが建築できます。これらを定向進化によって急ピッチで建設してゆく。

このような、複雑な分子の「恊働」形式をボトムアップで進化デザインしてゆく。これが私たちのユニークなところ,「誰にも負けない」と云えるところです。私たちの研究室は,「Evolutionary Synthetic Biology」の先鋭化と自動化,そして標準化をMissionとして,進化の分子工学的としての潜在能力を研究しています。

2. 進化「工学」の拓く新しいサイエンス

分子技術を進化の解答から学ぶ

進化工学実験によって得られた変異体の解析によって、そのタンパク質の機能や物性について、他の手法では知り得ない、数多くの情報を得ることが出来ます。それぞれの進化工学プロジェクトが、私たちの知らなかった分子戦術をひとつふたつは教えてくれます。いずれも、更に次なる(今度は自前での?)タンパク質工学に設計指針を与える重要な知見ばかりです。進化工学を行うたびに,人類の分子設計技術は着実に向上するのです。

構成的な(合成的な)分子進化学としての進化工学

分子はいかに生まれ,進化するのか。その進化を膳だてるものとはなにか。複雑な分子システム(我々人間を含む)はどのように発生し、そしてどのように変遷してゆくのか。進化工学は、進化という現象について更に深い理解を得るための,代え難いツールとなります。

生物は,長大な進化時間の一コマにすぎません。それがかたち作られる過程の記述が抜けている以上,比較生物学が抽出できる情報は,一般に化学者が議論に使うほど確度の高いものではありません。一方、進化工学者は、タンパク質や代謝経路の進化過程を自分の手の上で,つぶさに「目撃」することができます。我々の手の中で起こる分子進化の記述は、全く別次元の「質が保証」が与えられています。

現在の生物は、たまたま地球で起こった歴史(偶然)の所産であり,数多くある「あり得た」進化シナリオのうちの一部を代表するのみです。部分の記述で進化の物理的本質を理解するには至らない。試験管内で生体高分子を進化させるということは、進化という物理現象を、科学的に研究するための不可欠な一歩です。またそれは,生体高分子の研究を,Evolvability(進化能)という物性をもとに整理・理解・設計する,あたらしい分子科学の開拓努力でもあります。

3. Suggested readings

この世界の魅力と重要性を知るには,以下のリソースの一読を「オススメ」します。

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