生体高分子を素材とした分子デバイス開発

私たちは、タンパク質からなる様々な分子素子の開発を行っています。タンパク質は、分子認識素子(センサ)としても、酵素(触媒)としても、そして構造材(ナノ材料)としても、今日の化学者には到底及ばない高い性能と多様性を持っています。このタンパク質機能を自由に改造あるいは創出し、いままで不可能であった数々の化学プロセスを実現するのが目標です。


1. 酵素機能の創出と改良

酵素は,特定の化学反応を,常温常圧で,極めて効率的・高選択的に,そして有機溶媒フリーで行うことができる,究極の分子触媒です。これらを進化工学という手法によってさらに"改造"し,望みどおりの生化学触媒を創り出す研究を行っています。なかでも,炭素-炭素結合の形成反応を触媒する酵素に拘り,自然界には存在しない新規な構造をもつ数多くの生理活性物質の創出に成功してきました。

2. バイオセンサの制作

似て異なる夾雑分子に惑わされず,特定の物質だけを選択的に捉える受容体タンパク質は,いわば分子認識の極致と言ってよいでしょう。これら受容体タンパク質を改変し,環境汚染物質などを標的としたセンサシステムの製作を行っています。また,これらの高い分子認識能がどのようにして実現されているかを調べる基礎的な研究も行っています。

3. 分子「システム」の進化デザインと細胞工学

タンパク質は単独でも優れた機能を発揮しますが、これらが連携すると,生合成や情報伝達など、更に複雑な高次機能を創り出すことができます。

代謝進化工学:生合成経路の遺伝子をひとつひとつ進化させ、組織的に発散/多様化させます。この方法で,新規な骨格を持つカロテノイド色素、テルペン香料、脂溶性ビタミンなど、人類はもちろん,自然界さえ創らなかった数々の分子を実験室内で創出しています(→Porject-2/3)。

情報処理回路の進化デザイン学:遺伝子スイッチやセンサをうまく組み合わせることによって,高度な情報処理機能を創ることができます。私たちは,横林研(U.C. Davis)やVoigt研(MIT/ UCSD)とともに,細胞にインストールできるさまざまな人工機能(センサ,演算,通信,合成)を開発しています。

4. Genome工学の新手法

私たちがデザインできる代謝経路が複雑になるほど、そのホスト(宿主)となる細胞との折り合いが難しくなってゆきます。結局は、宿主細胞を大規模に改造し、私たちの無理難題に応えてくれる微生物を創製する必要があります。このため、組織的にゲノムDNAの書き換え/編集を行う新手法を開発しています。

5. 実験進化学としての進化工学

分子進化の理解は進み、それを模した分子デザイン法(=進化工学)も確立しました。しかし,我々が「進化」について問うべき謎は沢山あります。そもそもなぜ,「進化」は優れたものづくり法たり得るのでしょう。私たちは,(1) 生体高分子の「進化しやすさ」(Evolvability)という物性の研究,(2)更に高速な「越自然」進化プロセスの探索,を行っています。